クラウドコンピューティング、そしてプラットフォーム戦争の再勃発

文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子
2009-04-06 11:22:01
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クラウドで成功を収めるには

 では、過去のプラットフォーム戦争で知り得たことと考え合わせて、クラウドコンピューティングの先端では、どういった課題に取り組まなければならないのだろうか?以下はその概略である。

  • 採用、導入のしやすさ。クラウドコンピューティングの新たなソリューションを作成することは容易ではないとはいえ、既存のアプリケーションやデータはクラウドに容易に移行できなければならない。このため、Javaや.NETアプリケーションとそのデータベースをすべて移行するようなツールがおそらく一般的になるだろう。また、こういったものはTivoliやPatrolといった管理や運用を行う既存のアプリケーションとうまく協調できるクラウドプラットフォームともなるだろう。今日のような環境下では、クラウドへの大規模な移行や転換は敬遠され、気軽な採用を可能にする効率の良いツールへの関心が高まっていくだろう。
  • クラウド規格のサポート。最大のクラウドによって一連の規格が実質的に制定される(例えば広く普及しているAmazonのS3サービスは、すでにEucalyptusやSunのクラウドで採用されており、最近ではCloud Computing Interoperability Forumでも真剣に採用を検討していると伝えられている(関連英文記事)ものの、プラットフォーム戦争で一歩先んじる最善の手段は最も普及している規格を採用し、最高の実装を提供することである。PC革命の初期の頃、IBM PCの規格であったISAバスのインタフェースを採用し、それを元にして競合する実装を作り上げた9社連合(Gang of Nine)の話は有名である。われわれは現在、クラウド業界とS3インタフェースでそれとよく似た状況に直面しているのだ。オープン規格の場合は、Webサービスの時のように最初に規格ができあがり、その後で実装が出てきたものの、クラウドコンピューティングという分野の動きは速いため、現時点では正反対の状況になっているのだ。Amazonは出足でリードしているものの、まだまだ多くの規格化作業が残されている。そうは言っても、規格がクラウドコンピューティング業界の動きについていくのは難しい状況が続くだろう(関連英文記事)。要するに、現代の顧客は規格によって選択と柔軟性が与えられる(例えば、同じ規格をサポートしているクラウド間であれば移動できるようになる)ということを理解しており、上述したように特定の実装を核にしたグループ化によってデファクトスタンダードが形成されるという兆候がすでに見え始めているのだ。アップデート:クラウドコンピューティングの規格における最新の状況については、Open Clouds Manifestoについての3月27日付けの記事を読んでほしい。
  • プラットフォームの堅牢さ。クラウドの巨大化に伴い、ユーザーに提供できる価値も大きなものとなっていく。しかし、それは価値のごく一部、すなわちコストというものでしかない。クラウドの能力というものも価値の1つであり、これは顧客の既存ニーズを満足できるか、あるいは顧客の抱える問題を新しい、そして説得力ある方法で解決できるかという基準によって採用を判断するうえで重要なものなのだ。そして現時点においては、ストレージやコンピューティング、キューイング、コンテンツ配信、マネジメントツール、アプリケーション固有のAPIといった能力が、さまざまなクラウドから多種多様な方法で提供されている。顧客が必要とするものを顧客が要求する形態(少なくとも顧客にとって利用可能性が高いと感じられる形態)で提供できるかどうかによって、クラウドコンピューティングにおける勝者と敗者が分けられるのだ。例えば、クラウドストレージを使用しようとした場合、今日ではForce.comのオブジェクトストアやAmazonの「SimpleDB」といった非リレーショナルデータベースを利用することになる。これは現在のビジネスアプリケーションがデータのやり取りを行う際、主にSQLベースのリレーショナルデータベースが使用されていることを考えると好対照をなしている。こういった状況に変化が見え始め、一部のクラウドプラットフォームではブロックストレージが利用可能になっている(関連英文記事)ものの、プロバイダーは自らのクラウドがサービス品質保証(SLA)に適合するよう、そして顧客が期待しているパフォーマンスレベルを維持できるよう、何らかのアーキテクチャ上の制約を課しているのは明らかである。このことはつまり、堅牢性と実用性のバランスをうまく取ったプロバイダーが勝者になるということを意味している。そしてこういったことは、エンタープライズ規模の機能を持った堅牢なクラウドプラットフォームについても言えるのだ。私が最近執筆したクラウドコンピューティングとITに関する記事(英文)では、多くのクラウドプラットフォームがエンタープライズの要求にまったく取り組んでいない場合もしばしばあるということを指摘している。しかし、戦略的IT市場のうち、エンタープライズ市場が未だに大部分を占めているということを考えた場合、顧客の厳しい要求を考慮したとしても、おそらくクラウド市場全体でもエンタープライズ市場が大きな部分を占めることになるだろう。
  • 開発者によって作成された開発者のためのクラウド開発ツール。これはソフトウェアプラットフォームについて特に言えることであるが、開発者による採用がクラウドの成功において決定的な役割を果たすことになる。MicrosoftがWindowsプラットフォームとともに何年にもわたって王座に留まり続けられたのは、Microsoft Developers's Networkを立ち上げ、パワフルなツールやサポート、情報といったものをよどみなく提供したことによるところが大きい。こういったことによって、開発者らはMicrosoftから重視されており、Windowsというプラットフォームで成功を収めるために必要なものが与えられると感じることができたのだ。現在のクラウド市場をリードしているプロバイダーであるAmazonも、伝道者を核とし、開発者に対する支援をビジネスよりも優先させるという、開発者を中心に据えた戦略を採っていることは偶然ではない。頭の良いコンピューティングプラットフォーム企業は、開発者コミュニティが企業とクラウドをつなぐ鍵であり、それによって自らの生死が分けられるということを理解している。開発者を重視するという姿勢はForce.comやSunのCompute Cloudを見ても明らかである。なお、Compute Cloudには新しいREST Cloud APIが実装されており、これは設計の素晴らしさとベストプラクティスという点で規格化がほぼ決定されており、これも最高の開発者を惹き付ける一因となっている。教訓:開発者向けのクラウドを構築すれば、エンタープライズはやってくるのだ。
  • 優れた評判としっかりした運用履歴。開発者の囲い込みは必要不可欠であるものの、企業は一般的に他の尺度でビジネスパートナーを評価するのである。こういった尺度としては、クラウドコンピューティングのプラットフォームにおける安全性、安定性、信頼性、セキュリティの評判があり、これらが企業による戦略的採用にとって重大な意味を持つのだ。そして、稼働率情報、リアルタイムでの状況、直近の信頼性あるデータといったものを公開することがすでに一般的になっている。Amazonの「SERVICE HEALTH DASHBOARD」やGoogleの「Apps Status Dashboard」を使用することで、誰でも自分のコンピューティングクラウドの品質を確認できるのである。ただし、レイテンシやパフォーマンスデータについては、まだほとんど情報を得ることができない。このため、ほとんどの企業は実際に使用してみるまで、クラウドがどの程度のパフォーマンスを見せるのか判断できないのだ。その他の評判に関わる懸念として、顧客が他のクラウドに移行しようとした際に何らかの邪魔をされて囲い込まれるのではないかという恐怖によってベンダーがダメージを受けるおそれもあるものの、現時点では実際にそういったことが起こったという話は聞こえてこない(とは言うものの、それはこの市場がまだ新しいためかもしれない)。詰まるところ、クラウドコンピューティングの提供するものは基本的なインフラであるため、顧客にとっては単にコストだけでなく、プロバイダーに対する評判と実行能力が極めて重要な要素となるのだ。

 その他のさまざまな新しいオープンビジネスモデルと同様に、現在のクラウドコンピューティングには、数々の答えられていない疑問が山積している(関連英文記事)。現在のところ、こういったもののほとんどはリスクや、コントロールを失うことに対する不安感、NIHシンドローム(「自社で開発されたものではないため受け入れない」症候群)が中心となっている。

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