エンジニア as アーティスト

怒賀新也 (編集部) 田中好伸 (編集部) 山田竜司 (編集部)
2015-01-01 00:00:00
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 2015年の元旦を迎えた。経済のグローバル化による競争の激化、国内では減少していく人口を補うべく、さまざまな業種業態で生産性の向上が求められる。

 ほとんどすべての課題の解決において、核となるのがITだ。企業が競争に勝つための手段として経営とITの統合が叫ばれて久しいが、少しずつ雰囲気が変わってきている。ITを核にして経営をつくる――是非はともかく、現実は少しずつその方向に傾き始めた。

 その変化の中で、特に対応が迫られる職がエンジニアだ。エンジニアを取り巻く環境のここ数年の変化は、ウェブ環境の拡大による開発言語の移り変わりや、クラウド化による役割の変化など、テクノロジ面だけに注目しても非常に激しい。だが、より大きな枠組みでも変化の足音が聞こえてきている。


 これまで「正確に動作すること」が最も重要な価値だったが、今後はそれだけではなく、「かっこいい」「美しい」というような、従来はそれほど念頭に置いていなかったような視点が求められるようになってくる。感性で勝負するいわゆるアーティストの要素が、エンジニアと深くかかわってくるのである。

 マイナンバー制度や金融機関の新規プロジェクトが重なることで、エンジニアの大幅な不足が予測される「2015年問題」の要因もあり、従来型のものと将来求められるエンジニア像とのギャップは、さらに拡大する。

 ここでは、2015年にエンジニアを取り巻く環境変化について、考えられ得る要因を分析してみる。

ビジネス戦略の変化

 東京海上日動システムズの顧問、横塚裕志氏が2014年に次のようなことを指摘していた。

 「従来システムは、例えるなら保険契約を交わした後のもの。今後は、保険契約を交わす前、あるいは保険契約を交わしている最中のためのものが重要になる」

 この一言に、エンジニアが気をつけるべき多くの事柄が含まれている。従来、多くの企業が構築してきたシステムは、顧客情報、受注や在庫などのトランザクションデータなど、既に確定した大量のデータを正確に処理することが求められてきた。障害が許されない、いわゆるミッションクリティカルな基幹系システムの多くはこの分野だ。

 だが、飽和経済を迎え、ゼロサムゲームでの戦いが基本になる中で、今後の企業は競合他社だけでなく、既に出来上がった、他社が持つ市場からシェアを引き剥がすような戦略を採るケースも増えてくる。スマートフォンが、デジタルカメラ市場のシェアを奪ったようなやり方だ。

 こうした大きな流れの中で、エンジニアも少しずつ別の役割を求められるようになる。端的に言えば、顧客を獲得するようなシステムがより重要になってくる。生命保険で言えば、顧客の目の前で操作し、契約の意志を固めてしまうような魅力を持ったスマートデバイス向けアプリケーションなどだ。

 多くの企業が既に、基幹系システムをある程度作り終わっている――という事情も加わるが、企業ITに求められる要素が、スタートラインから変わってきているのである。このあたりの変化への対応については、後ほど詳述することにする。

開発言語の移り変わり


 エンジニアの業務にとって、いろいろな意味で開発言語は切り離せない。最も身近な存在だ。そのプログラム言語の流行には既にこれまで述べたような変化が反映されている。

 10~15年程度さかのぼると、新卒エンジニアが最初に学ぶプログラム言語は、CやJavaが一般的だった。その後、ウェブプラットフォームやオープンソースの急速な普及に伴い、現在はウェブを前提にした技術がエンジニア市場で重宝される傾向にある。ウェブ系エンジニアの存在感がどこまで高まるのかを見極めるのも、エンジニアとしての1つのトピックだ。

 具体的には、端末ごとに画面の大きさが異なるスマートデバイス向けに、アプリケーションを自動で出し分けられるなどの特徴を持つHTML5や、JavaScriptなどに改めて注目が集まっている。

 12月の記事「ウェブ開発を目指すならJavaScriptを身につけろ」では「かつては地位の低いブラウザスクリプト言語だったJavaScriptが、今ではサーバからクライアントまであらゆる場所で使われており、さらに、利用できる選択肢が毎日のように増えている」との指摘があった。

 米MicrosoftはJavaScriptを「Windows 8」アプリケーション開発のプラットフォームとして選び、Googleは「Chrome」に「V8」と呼ぶJavaScriptエンジンを搭載した。これらも、JavaScriptの飛躍を遂げた。

PaaSが変えるエンジニア発想

 もう1つの重要な動きとして、PaaSの台頭が挙げられる。PaaSとは、CPUやメモリといったハードウェアを仮想的なリソースとしてユーザーに割り当てることに加え、OS、データベース、ソフトウェアの開発環境や実行環境なども合わせて、ネットワーク経由でサービスとして提供する形態だ。

 主なサービスにSalesforce.comの「Force.com」やMicrosoftの「Windows Azure」、Googleの「Google App Engine」、IBMの「BlueMix」、オープンソースでは「CloudFoundry」などがある。より手軽にアプリケーションを実装できるという利点がある。

 Google Apps向けアプリケーション開発などを手掛ける日本技芸の代表取締役社長を務める御手洗大祐氏は「今後のアプリケーション開発ではPaaSに精通していることが大いに求められる」と話す。

 アプリケーションやサービスの開発だけでなく、より質の高いシステムを構築するために開発基盤としてのPaaSに精通していること、もしくは、自社でPaaSを構築するような場合は、PaaSそのものを開発するニーズも高まってくる。

 こうした環境の変化は、エンジニアはもちろん、IT部門の在り方そのものにも変化を与え得るものだ。

新しい軸で考えるシステムのあり方

 これまで企業の情報システムの分類と言えば、基幹系と情報系という考え方が一般的だった。基幹系システムは、企業の業務と密接にかかわるものであり、それこそ止めてはいけない、ミッションクリティカルなシステムという見方だ。対する情報系システムはメールやグループウェアが代表格だが、ある程度の障害や停止は許容されると言われてきた。

 しかし、この1~2年でシステムの分類に新しい軸が加わってきた。“System of Record(SoR)”と“System of Engagement(SoE)”という軸だ。

 SoRは、その代表格が受注から出荷までを記録、追跡する統合基幹業務システム(ERP)であり、バックエンドを担うシステム群と表現できる。反対のSoEは、顧客との関係を拡大、深めるためのものであり、営業やマーケティングなどのフロントエンドが使うシステム群と言い表すことができる。先の横塚氏の言葉を使えば、SoRとSoEの違いはこう表現できる。

 商品やサービスを購入してからの業務を回すのがSoR、商品やサービスをいかに買ってもらうか、買ってもらった顧客をつなぎとめ、継続して買ってもらうようにするのがSoE――という具合だ。

 従来の基幹系と情報系という軸は、いわばIT部門にとっての重要度を示すものだと言える。基幹系は、業務と密接不可分だから止められない(といっても、受注を受けるのは9~17時であり、受注した分を計算するのは夜間のバッチ処理という位置付けだ)。情報系はユーザー部門が使うものだが、基幹系ほどの重要性はない。

 基幹系と情報系という軸は、IT部門にとっての考え方だが、SoRとSoEという軸は、企業全体あるいは経営層からの見方だと表現できる。つまりは、SoRは業務にとって必要だが、SoRで考えるべきは、コストをいかに下げられるか。対するSoEが狙うべきなのは顧客との関係であり、いかに売り上げを拡大させるか、ということになる。

 SoRとSoEという軸で考えた時に、企業全体の投資はどう考えられるだろうか? 経営層としては当然売り上げ拡大を狙えるものであるSoEの方に投資したいと考える。それは企業という組織の成り立ちを考えれば、当然の帰結になる(Gartnerが2017年までに、IT部門よりも非IT部門がより多くのIT投資をするという予測は、SoRとSoEというシステムの考え方を拡張させたものと位置付けることができる)。

 もちろんERPやサプライチェーン管理システム(SCM)のようなSoRは今後も必要であることに疑問をはさむことはできない。しかし、ERPやSCMなどのSoRの“お守り”することがIT部門の本来の業務だろうか?

 IT部門が担うべきなのは、企業が成長するためにシステムをどのように使うべきかという戦略や戦術を示すことにあるはずだ(その将来像を描けずに悩むIT部門の実態はITRの調査で明らかになっている)。

 先に示したように、企業の収益源となる可能性が潜む、さまざまな場所にスマートフォンやSNSなどのITが浸透する今だからこそ、IT部門が担うべき場所も多様化している。

 企業が成長するために必要となる“攻め”のシステムを検討、活用するのか、これまでと同じように業務を回すためのシステムの“守り”だけでいいのか――。IT部門の存在価値が問われている。

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