「Adobe Digital Publishing Suite」を試す(3)

海上忍
2011-02-24 20:15:24
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 本特集のメインテーマは「EPUB」ですが、リフローを前提としたそのフォーマットは、雑誌に最適とは言い難い部分があります。出版社にしてみれば、広告などの需要も加味すると、Adobeの「Digital Publishing Suite」などのソリューションを検討する余地は大いにあると言えます。今回、そのDigital Publishing Suiteのプレリリース版を試用する機会を得られたため、Adobe Labsで公開中のベータ版との対比を含め、その機能を紹介してみます。

最新版「Adobe Digital Publishing Suite」の変更点

 この記事を公開した2月24日現在、Adobe Labsで公開中のAdobe Digital Publishing Suite(β1)は、2010年10月25日以来更新されていません。Adobeは今後同ベータ版を更新せず、プレリリースプログラムに参加したメンバーに限り、同スイートの最新版を提供する旨を表明しています。

 プレリリースプログラムに参加している日本の企業や出版社も多く、すでにApp Storeでは同スイートで制作した電子マガジンもいくつか販売されています。三栄書房がリリースした「ゴルフトゥデイ」は、先日開催された「Adobe Digital Publishing フォーラム 2011」で事例として紹介されたように、プレリリースプログラムの産物であり、当然“日本語が通る”バージョンのAdobe Digital Publishing Suiteで制作されています。

 このプレリリース版Adobe Digital Publishing Suiteには、日本語対応のほかにも、デスクトップ向け.folioビューア「Adobe Content Viewer」など、ベータ版には含まれない機能が多数含まれています。

  • 日本語対応の「Content Bundler」
    InDesign CS5の文書を「.folio」形式に変換するAIRユーティリティ「Digital Content Bundler」がアップデート、日本語テキストを含むCJK文字の扱いが可能になりました。
  • 定期購読に対応
    雑誌や新聞の定期購読用サブスクリプションモデルを、発行元が独自にセットアップするための機能が搭載されています。「.folio」をiPad上に保管しておく範囲(期限)などを指定できます。
  • 右綴じに対応
    Content Bundlerのとじ方向に「右とじ」が追加、右から左へ読み進む日本語スタックの作成が可能になりました。
  • 不具合の修正
    CJK文字を使うと書き出せない、文字化けするなどの問題が多数修正されました。ただし、ドロップ9時点のデスクトップ用ビューアは、PDFスタックを表示できないなどiPad版(Adobe Content Viewer)に比べ実装が遅れています。
プレリリースプログラム版ADPSに収録の「Digital Content Bundler」を試したところ、日本語を含むCJK文字も処理できた プレリリースプログラム版ADPSに収録の「Digital Content Bundler」を試したところ、日本語を含むCJK文字も処理できた ※クリックすると拡大します

Adobe Digital Publishing Suiteの料金体系

 日本語を含むCJK文字を扱えるようになった段階で気になるのは、その料金体系です。アドビシステムズでは、すでに「Digital Publishing Suite標準価格」というページを設け、出版社サイドが負担する費用を説明しています。掲載されている料金体系は暫定版とのことですが、とりあえず現状をまとめてみたいと思います。

 まず、Digital Publishing Suiteには、「Professional Edition」と「Enterprise Edition」の2種類が用意されます。大まかに言ってしまうと、前者は電子マガジンにこれから取り組もうとする出版社や少部数向きの“ライト版”で、後者は電子マガジンに本腰を入れようとする出版社や大部数向きの“本格版”です。

 Professional Editionは、月額699ドルをベースに、発行部数に基づく1号あたりの料金が加算された費用が発生します。加算料金は、年間発行部数5万部以下が1部あたり0.3ドル、5万部以上25万部未満(年間)が1部あたり0.25ドル、25万部以上(年間)が1部あたり0.17ドルに設定されています。

 以上の条件でミニマムコストを計算すると、年間1万部の売上が確実に見込めると仮定したとき、699+(0.3×10000)=3699ドル、1ドル83円換算で約30万7千円となります。電子マガジンの価格設定にかかわらず、アドビに支払うコストは最低でも1部あたり約30円、App Store経由で流通させるのであればAppleに差し引かれる手数料も考慮しなければなりません。1部500円とすれば、出版社が受け取る金額は1部あたり320円、1万部で320万円という計算です。

 価格や制作費は出版社や媒体により差があるため、上述の計算式はいささか乱暴ですが、少部数の媒体に不向きなことは確かだと思います。ある水準以上の利益を確保できるかどうかは、電子雑誌という新規事業に対するモチベーションの問題にもなります。継続発行を前提とすると、定価1000円前後で年2~3万部以上を見込める雑誌がターゲットゾーンになるでしょうか。

 もうひとつのEnterprise Editionは、個別見積を基本としたオーダーメイド型の料金体系です。課金システムなどサードパーティーのサービスを組み込むAPIを提供したり、拡張版のAdobe Viewer/Content Bundlerを提供したりと、出版社の要望に応じたカスタマイズも可能です。

 電子マガジンを話題にするときは、制作ツールとしての完成度やフォーマットとしての柔軟性も重要ですが、出版社にとって重要な収益源となる可能性を秘めている以上、コストの話は不可避です。このあたりについては、折を見て取材したいと思います。

「Adobe Digital Publishing フォーラム 2011」では、暫定版ながら日本向け料金体系が発表された 「Adobe Digital Publishing フォーラム 2011」では、暫定版ながら日本向け料金体系が発表された ※クリックすると拡大します
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