ソニーやKDDIら4社連合の「電子書籍配信事業に関する事業企画会社」が示すもの

海上忍
2010-05-28 17:29:00
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

発表内容には情報の“出し渋り”を感じる場面も

 会見の子細は前述のレポートを参照いただくとして、ここでは気になった点をピックアップしていきたいと思います。

 まず、ソニーの国内電子書籍市場参入について。米Sony Electronicsのシニアバイスプレジデントである野口不二夫氏の話では、データディスクマンについての言及はありましたが、2004年に発売された電子書籍リーダー「LIBRIe」については一切触れずじまいでした。年内の電子書籍リーダー発売についても、「国内市場再参入」ではなく「国内市場参入」という表現です。前向きな発表の場ですから、敢えて触れずにおいたのかもしれませんが、前回の敗因を徹底分析して次に生かす、といった力強くもしたたかな発言がほしいところです。

 4社代表のスピーチに共通していた言葉が、「オープン」です。質疑応答の際にも、この言葉が示す意味が取り沙汰されていましたが、電子書籍配信プラットフォームをオープンにするのか、フォーマットがオープンなのか、明確な定義は与えられませんでした。「4社および参加を表明している企業の競合先が参入を求めてきた場合どうするか」という問いにも、「同一業種から複数の事業者が参加する可能性はある」と答えた程度です。

 ハードウェアに関しても、情報の出し渋りが感じられました。確認できたのは、ソニーとKDDIから対応端末が出ること、スマートフォンや専用端末などバリエーション豊富なこと、年内の発売が予定されていることくらいです。会見の場では端末のプロトタイプは展示されず、イメージ図が披露されることも ありませんでした。電子書籍リーダーというハードウェアは、画面や物理的な操作感が重要視されます。画面を見せないのは、まだどのフォーマットを採用するか決定していないから、とも考えられます。

“著者不在”で進んだ会見

 会見では、本に不可欠な存在であるはずの「著者」について、まったくといっていいほど言及されませんでした。販売条件については、事業企画会社と出版社が相談しながら日本の市場にあった値付けプロセスを決める、との発言がありましたが、そこに著者は不在です。

 話は逸れますが、著者が電子書籍を恐れるとすれば、ひとつの理由に「部数保証を期待できない」ことがあります。出版社と交わす契約によりけりですが、紙の本の場合、最初に刷った(初版)部数については印税の支払い保証を受けることが一般的で、それが著者側の損益分岐点(執筆に要した期間・経費と利益がバランスする位置、言い換えれば「仕事量にみあう必要最低限のギャラ」)を求める際の基準となっています。

 たとえば、1000円の紙の書籍を印税率10%/初版1万部で計算した場合、売れても売れなくても100万円(源泉差し引き前)が支払われる計算です。一方電子書籍の場合、初版や重版という概念がありませんから、放っておけば完全実売制になる可能性が高く、事前に損益分岐点を計算することは困難です。

 極論すると、多くの著者にとって配信プラットフォームなぞどうでもいい話なのです。そんなギャンブルのような仕事に時間を割くくらいなら、数カ月後の収入を読める紙の本のほうがまだマシ、と考える著者は少なくないはずです(売れる本を書けばいい、市場原理だ、で片付けられないところが出版の難しさでしょう)。紙との連動や両立も結構ですが、電子書籍先行or単独販売の時代に入りそうな状況下、事業企画会社には著者も納得する「デジタル時代の印税方式」を提示していただきたいと思います。

それでも「4社連合」に期待する理由

 文句ばかりになりましたが、それでも私は4社連合の事業企画会社に期待しています。いち消費者の立場でいえば、電子書籍ストアが乱立して欲しい本を探すためにネット上を右往左往、という事態は避けたいところです。著者の立場でいえば、業界の範となる印税支払いモデル(契約書のテンプレート策定もあわせて)を確立できるのは、事業企画会社なのかもしれないという期待があります。新会社には落ち着いた頃に取材を申し込もうと考えています。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]