受験マンガ「ドラゴン桜」ですら一度は配信NGに--電子書籍には“カウンター勢力”が必要

海上忍
2010-05-13 16:35:58
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 前々回掲載したボイジャー代表取締役社長の萩野正昭氏のインタビュー、かなりの反響をいただきました。分析するに、担当編集者が考えた見出しにインパクトがあったからではないでしょうか? 電子出版時代は出版社も編集者も不要だという意見があるようですが、それは暴論ではないですかね。このような場面で、つくづく思います。

 読者の方にもアクセスの御礼ということで、構成の都合で掲載を見送った話を披露しましょう。インタビューに同席いただいた開発担当者氏に聞いた、「ドラゴン桜」の一件です。三田紀房作で教育や受験をテーマにしたこのコミック、めでたく全巻iPhoneアプリとして登録できたそうなのですが、最終巻近くになりリジェクトが発生。原因を探ると、登場人物がノートPCで作業している描写がマズいのだそうで。勘の鋭い方はお気づきになりましたよね? はい、例のロゴマークが描かれていたからです。やむなくその部分を消して対応したとのことですが……ここ、笑う(しかない)部分ですよ。

 さて今回は、ボイジャー萩野社長へのインタビュー最終回として、検閲などの問題を中心に“あるべき電子書籍流通網”を探りたいと思います。

“あるべき電子書籍流通網”をボイジャー代表取締役社長の萩野正昭氏に聞いた “あるべき電子書籍流通網”をボイジャー代表取締役社長の萩野正昭氏に聞いた

海上:iTunes Storeにおける“検閲”の件ですが、ゲームなどのアプリケーションに限った話はともかく、iBooks Storeで扱う「本」も同じとなると、表現の自由にかかわる由々しき問題になりますね。

萩野:そう、非常にふざけた話でね。Appleは、iBooks Storeで出版業のインフラを提供するわけじゃないですか? 音楽産業で80%近いシェア(筆者注:欧米の音楽ダウンロード販売におけるiTunes Storeのシェア)を誇るからといって、その成功経験が出版分野にも通用するとはかぎりません。しかし同じビジネススキームを持つ話ですからね、この分野でも市場を席巻するとなると……出版業は死んだも同然になるやもしれません。

海上:Amazonの「Kindle Store」についてはどう考えていますか。

萩野:基本的には同じことでしょう。ただ、Appleに比べればハードウェア色は弱いですよね、Kindleという火付け役的存在がかなりの注目を集めてはいますけれど。AppleのiPadのほうが、ハードとしてはKindleより魅力的ですしね。ただ、Amazonの場合、本というものに関して言えば、全世界に広がる流通網を確保していますから。

 流通とハード両方を牛耳られたとしたら、競争という意味では相当厳しくなります。しかし、どちらが恐ろしいか強いていえば、それは流通でしょう。競争相手がいなければ。その意味では、Appleにも頑張ってもらわなければなりません。

海上:では、“検閲”の結果リジェクトされそうな本は、どのようにして流通させていけばいいのでしょうか。

萩野:私の考えでは、「第三の流通網」をつくるしかないだろう、ということです。では頼れる会社はどこかといえば、日本にかぎらず出版社というものはことデジタルの話となると、“まったく”信用できませんから(笑)。とはいえ、役割としては出版社が負うべき話ですよ。歴史的にも、検閲に対して突っ張ったのは出版社や新聞社ですし。

 今回のApp Storeからリジェクトされた件も、基本的にはそういう立場なはずです。しかし、どれだけ(検閲に対し)闘うかとか、現実のしがらみが絡んだ話となると、信用できないのですよ。日本の出版社が米国のAppleにかけあった、という話は聞いたことがありません。内容についてリジェクトされたので反論したところ結論が覆った、ということも皆無なはずです。

 そういう意味でいうと、覇権主義的なソフトベンダーのやり方に対しオープンソースソフトウェアのムーブメントが生まれたように、中立的というか、カウンター勢力的存在が出てくることに期待しています。弊社がInternet ArchiveのBookServerプロジェクト(筆者注:ボイジャーが主催する「マガジン航」に詳しい)に参加した背景には、そのような事情があります。

海上:第三の流通網は、ワールドワイドに展開する必要があると思いますか。

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