
パナソニックとソニーのあいだ:開発者がおさえておくべき会社という仕組み
前回の「『社是』を見たことがありますか?」もあわせてご覧ください。(編集部)
PCをはじめとする電機製品を販売する電機業界では、グローバルに対応するためにスピードを重視し、「事業部制」を採用する企業が多い。中には、事業部をさらに進化させて資金調達までも行う、完全独立の「カンパニー制」を中心とした組織構造にしているところもある。
「事業部制やカンパニー制のメリットは、ある製品やサービスを提供する仕事をする際、営業機能から広報機能、経理機能までこれまでバラバラだった機能が横断的にひとまとまりになっているため、自分たちのこなしていく仕事でどのくらい利益を生んでいるのか、どのくらいのコストが掛かっているのかなどについて、各機能を果たす人が一体として会社にどのくらいの貢献をしているのかが明確になりやすいです」
と語るのは、会社法などに詳しい戸村智憲氏だ。営業部、経理部などに分かれている「職能部制」の場合、物やサービスを作っているところでは、製品を作るときのコスト以外の部分への意識が遠くなってしまい、採算を度外視した製品を開発するといった問題が生じる危険性を孕む。その点、たとえば商品開発や製造、販売といった部門が同じ事業部の中にいると、自分たちが開発する製品が事業として売れるモノなのかどうかをより意識できるようになる。
パナソニックの事業部制解体
「職能部制は自分が所属している部門の役割だけに意識を集中できるという部分がメリットでしょう。また、コスト感覚は必要ですが、事業部制やカンパニー制では犠牲になりがちな、モノ作りの現場のコストを度外視してでも取り組むべき未来へ向けた大切な開発に対応しやすいと言えるでしょう。たとえば、何に使われるか分からない世界最小のネジなどは、昔は無意味だったかもしれませんが、今やナノテクで最先端の機器にとって欠かせないものとなっています。こういった技術の発展や発明には、職能部制の方が効果的である可能性もあります」(戸村氏)
職能部制、事業部制、カンパニー制のどれを中心として事業を行っていくのかは、それぞれに合理的な理由が存在するというわけだ。企業の組織構造という点で注目されたのが、松下電器産業(現・パナソニック)の改革だ。同社は2001年度に経営改革の一環として開発・製造・販売一体の事業部制を解体している。日本企業の事業部制の元祖とも言える同社が事業部制を解体したことは、業界内外に大きな衝撃を与えた。
「パナソニックはその理由として、デジタル家電など製品そのものが事業部横断的な性格を帯びるようになってきたこと、生産体制を集約していかないと国際競争に対抗することができなくなってしまったことなどを挙げています。各企業の置かれた状況によっては、単体の事業部ごとに分業的だったり、縄張り意識やバラバラな状態で仕事をしていたのでは、全社一体となってスピードある経営を迫られる国際競争に勝つための事業展開が難しくなってきているのでしょう。
これは一般論ですが、事業部制ですと、たとえば、ある営業担当者が自分の事業部で扱う製品やサービスについては詳しく対応できるようになれても、ほかの事業部の扱う製品やサービスに関するスキルはまず身につかないですよね。自社のさまざまな商品ラインナップをワンストップで販売する意識も希薄になりやすいと言えるでしょう。加えて、各事業部の中に広報機能も経理機能も重複して存在させる形態を取るのは非効率な部分もあると見えてきたようです。このところ、事業部制・カンパニー制から、改めて職能部制の良さを見直してきている企業も多くあります」(同氏)
ソニーは2005年にカンパニー制を廃止
事業部制でも、新しい事業を興すときに、前々回紹介したNTTレゾナントのように、アメーバ式の柔軟性のある組織作りが可能であれば、それでも問題はないだろう。しかし、事業部が大きくなるほど、組織は硬直化する危険性がある。独立採算的という部分も作用してか、結果、事業部同士でのヨコのつながりが弱くなっていくというデメリットも存在する。
「ベンチャー企業の中でも、扱っている商品やサービスが限られている場合には、コスト意識や効率性の面でも事業部制の方が有効であることも多いでしょう。しかしながら、規模の小さい組織で、細かく仕事を分断するという方向性は、かえって非効率的な経営になってしまうことも考えられます。各企業の規模や組織風土や経営の意図に応じて、扱っている商品・サービスに対する人的な資産をどう活用・集中して、どう効率性を高めるかを見定めて、組織形態を選択・変革すると良いでしょう」(同氏)
たとえ職能部制が主流になったからといって、それがすべての会社組織に向いているというわけではないようだ。グローバルに展開する超大規模企業とも言えるソニーでも、事業部制、カンパニー制を採用していた。
どんな企業体であれ、いま自分たちの企業の大きさや形からどんな組織構造が効率的なのか、自分たちの会社はどういう方向を向いているのか、など総合的に考えて、“流行り”ではない形で組織をどう構築していこうとしているのか。そういったマクロな視野とミクロな視点を併せ持った経営陣の考えによって、組織構造の仕組みは決まってくる。その構造は、時流にあわせて変化していくものなのである。
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