
【特別対談】ネオジャパン齋藤氏×LPI-Japan成井氏 ビジネスのイノベーションを生み出す原動力とは何か?
OSSの教育にLPICを活用
成井氏:desknet's NEOでは、データベースにもオープンソースのPostgreSQLを全面採用しているそうですね。PostgreSQLのいいところはどこでしょう。

齋藤氏:PostgreSQLは2001年から採用しています。これも国内ではかなり早いほうだと思います。PostgreSQLは、Oracle DBを意識して作られていて、アーキテクチャーもよく似ています。企業利用のニーズを踏まえてしっかり作られている。同じオープンソースのデータベースとして、MySQLと比較されることが多いのですが、分散処理させる、チューニングする、フォールトトレランスの仕組みを作るというときは、PostgreSQLのほうが圧倒的に優れています。また、読み出し中心ならMySQLでもよいのですが、読み出しと書き込みが同じくらい発生する用途、グループウェアはまさしくそうした用途ですが、それにはPostgreSQLが適しています。即席で何かを作るようなときはMySQLのほうが手軽ですが、じっくり作り込むならPostgreSQLです。
成井氏:ところで、ネオジャパンではLinuxやPostgreSQLといったオープンソース、HTML5などのオープン標準を開発の中心に据えているわけですが、技術者教育はどうされていますか。Linux認定資格のLPICを採用していただきましたが、その意図は何でしょう。
齋藤氏:当社の技術者は、すべて新卒採用です。学部学科不問でコンピューターに強い興味がある人を採用して、社内でゼロから教えています。ただし、そうなると育てるのにも時間がかかる。そこで、時間の短縮と教育の質の向上を期待して、LPICを採用しました。講師を呼んで社内セミナーも実施しています。
成井氏:教育の質の向上というのは具体的には?
齋藤氏:優れた技術者が優れた教育者になれるとは限らないということでしょうか。desknet'sを初期のころから開発してきたベテランは、Linuxを10年、20年と使い続けてきています。その間には、廃れてなくなった技術、新しく入ってきた技術がたくさんありますが、Linuxの成長とともにLinuxを習得してきたので、そこに無理は感じていないでしょう。ところが、新入社員の前には、高機能で成熟したOSとしてのLinuxが突然現れるわけです。そうした人にベテランが教えようとしても、習得してきたスタイルが違いますから、どうしてもどこかに抜けが出てしまう。LPICのテキストに沿って学習すると、紆余曲折を取っ払って現在のLinuxをまんべんなく効率よく習得できる。ベテランの10年、20年の中には、なくなった技術の習得に費やした時間もあるわけで、そうした時間を省いて技術力のギッャプを一気に詰められるのでは、と期待しています。セミナーは技術者だけでなく、営業担当者にも受けさせています。自社の製品がどんな基盤技術の上で動いているか理解していないと困りますから。
成井氏:LPI-Japanでは、LPICのほかにも、HTML5プロフェッショナル認定試験やPostgreSQLのOSS-DB技術者認定試験など、オープン標準、オープンソースの技術者認定試験を提供しています。
齋藤氏:その2つにも取り組んでいく予定です。LPICで採用による効果はつかめてますから、OSS-DB技術者認定試験やHTML5プロフェッショナル認定試験にも期待しています。
創造的な技術者を育てるには?

成井氏:日本のIT教育は、クローズドソースの“使い方”教育が中心です。しかし、使い方教育からは新たな発想は生まれてこない。現在、最先端のIT技術はオープンソースから生まれているわけで、IT教育にオープンソースを取り入れる必要があると、常に感じています。
齋藤氏:そのとおりだと思います。例えば、OSの仕組みを勉強できる素材は、オープンソースしかないですよね。何か機能を追加してみようというときも、オープンソースならできるけど、クローズドソースではそうはいかない。いまだに大学のコンピューター・サイエンスの教育では、FortranやCなどの言語から始まったりしますが、順番が違う。Linuxに機能を追加したいとき、LinuxがCで書かれているからCを学ぶというように、対象に合わせて言語を選べばいい。最初に言語ありきでは、本当の中心となる部分が学べないでしょう。
成井氏:日本の情報処理学会と米国のACM(Association for Computing Machinery)で、OSの基礎研究に関する論文数を比べたことがありますが、ACMのほうが百倍以上も多いんです。人口の違いやACMに米国外の登録者がいることを考慮しても、いかに日本のOS研究者が少ないかということを示していると思います。
齋藤氏:日本ではベーシックなことを教えないんですよね。一方、米国ではベーシックなことしか教えない。この違いが応用力の違いになっているような気がします。
成井氏:あるゲーム会社の社長から、「新人にハードウェアの仕組みから教えないといけない、大学は何を教えているんだ」という愚痴のような話を聞いたことがあります。私がLPI-Japanの理事として認定活動に携わっているのも、コンピューターの本当の中身まで勉強する人が少しでも増えてくれるといいなという思いがあります。先ほど、ブラウザー開発者に直接会いに行ったという話がありましたが、先端的なことをやっている人たちは、中身までよく理解していますよね。
齋藤氏:そうですね。それにITの最先端で面白いことをやっている人たちは、遊びも面白いんです。いろいろな趣味を持った人がいましたが、彼らは趣味の世界でも面白いことをやっている。直接会いにいくのも、趣味の面白い話を聞きたいからというのもあります。仕事の話を1時間で済ませて、そのあと3時間も4時間も趣味の話をしたりとか。
成井氏:スティーブ・ジョブズ氏は、「アップルはITに精通しているだけでなく、IT+音楽やIT+映像などのITとクリエイティブの両刀使いを採用している。そこがアップルとほかのメーカーの違いだ」ということを言ったそうです。これからのITは、左脳を使う技術力だけではなく右脳を使用する世界との融合が差別化になるということでしょう。IT力に加えてほかに得意分野があるからITでも面白いことができるとも言えそうです。ビデオカメラで急成長しているGoProの社長は、サーファーだそうです。
齋藤氏:まだ上場する前でしたが、GoProは訪問したことがありますよ。私は趣味でオートバイの耐久レースをやっていて、その話をしたらGoProを何台でも貸し出してくれるという。その代わり、撮った映像をすべてくれと。それで引き取りに行ったんです。日本のメーカーも技術は優秀ですが、GoProのような企業が違うのは、遊び方を教えてくれるところ。ハードウェアを作るのではなく、ユーザー・エクスペリエンスを作っているんですよね。
成井氏:GoProは私も2台持っていますが、オープンソースの使い方が上手です。制御ソフトにLinuxを使っているんですが、技術的な面だけでなく、コミュニティの使い方がうまい。先ほどの「端末は貸し出すので、その代わりに映像をください」というのも、製品を盛り上げるうまい方法だと思います。
齋藤氏:GoProはまさに「人のオープンソース」といった感じです。そうやって周りを巻き込んで、「製品を良くする技術があるならください、意見もください、お金(出資)もください」という。すごいと思いましたね。
成井氏:インターネットは新しいアイデアに関してネット上でコメントを幅広く求めるRFC(Request for Comments)制度で良くなりました。インターネットだけでなく、例えばGoogleは自動運転車についてのRFCを出して広く意見を求めている。おそらくそうしたRFCは、人材採用にも役立っていると思います。履歴書を見るより、コメントの内容を見たほうが優秀かどうかわかる。
オープンソースは社会も変える
成井氏:お話を伺っていると、ネオジャパンが最新技術にいち早く取り組む企業ということがよくわかります。そしてLinuxやAndroidなどのオープンソースはコミュニティの貢献で改善されてきたわけですが、ネオジャパンもコミュニティ活動に参加しているわけですね。オープンソースは技術開発のあり方も変えましたが、ものの考え方にも大きなインパクトを与えたと思います。例えば、先ごろ戦艦武蔵の発見でニュースになったMicrosoft創業者のポール・アレン氏は、脳科学の研究機関を設立し、そこでの研究成果をオープンにしている。そのようにすることが研究を促進することを良く理解しているからです。クローズドソースのWindowsで巨万の富を得たポール・アレン氏が、研究を加速する方法としてオープンソースの手法を採用したのは、ネットが発達した時代における最先端分野の研究方法を良く理解している氏のすごいところだと感じます。
齋藤氏:自分で考えたもの、作ったものをオープンにして周りを巻き込んで改善するオープンソースのやり方は、社会に貢献するいちばん早い方法なんだと思います。成果をオープンにしても、そこで培った技術でアドバンテージが得られるし、自分たちだけでは作れないものも作れるようになる。そこがオープンソースの面白いところですね。

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