文化の違いで変わるデザインアプローチ[後編]

2010-11-01 01:05:28

前回の「文化の違いで変わるデザインアプローチ」という記事で社会学者の Geert Hofstede が提唱した5つの文化測定指標を紹介しました。欧米の用語やノウハウがたくさん日本に輸入されるわけですが、それをそのまま適応しても日本ではうまくいかなかったり、独自の解釈があります。「使いやすい」「よい体験」のニュアンスも国ごとに少し違うのは当然でしょう。その違いをどのように吸収するかを考えるときに5つの文化測定指標は参考になります。

日本とアメリカで文化の違いがどれだけあるかを表した図

アメリカと日本で文化測定指標を比較すると、集産主義、不確実さ、長期的志向の3項目が大きく違うのが分かります。前回の記事で集産主義を考慮したデザインアプローチを紹介しましたが、今回は残り2つの指標をもう少し詳しく紹介します。

不安を解消するための明確さ

日本語という言語は抽象的な言い回しがおおく、ニュアンスを捉えるのが難解な文章がたくさんあります。日本語の文学は言語の特徴を活かした想像力豊かな作品がたくさんありますが、日本人の生活においてはあまり象徴的・あいまいなものは好まれないようです。明確な答えを求める傾向がありますし、新しいことに積極的な部分があるものの保証や明確な事例がないと一歩前に踏み出せないこともあります。集産主義の解説でも触れましたが、誰かと違うということはリスクであると感じる理由として、正しい答えではない可能性があるという不安があるからかもしれません。

デバイスの操作には必ずエラーがついてきます。うっかりとしたヒューマンエラーもあれば、バグやシステムエラーなど様々な「間違い」が発生します。間違いをしたくないという感情が強い日本人だからこそエラーメッセージに敏感に反応してしまうのかもしれません。間違いを避けるため、能動的なアクションを減らしたり、誰もが使っているサイトに心地よさを求めるのでしょう。また、あやふやな概念を伝えるのではなく、ストレートで正しく聞こえるメッセージ (答え) のほうが伝わりやすいのかもしれません。

不明確への回避率が高い人に対してのアプローチとして以下の項目が考えられます。

  • クリックの先に何があるのかを示す
  • サイトで迷子にならないための配慮を行う
  • 利用者によるエラーを防いだり軽減するための自動化や演出を行う
  • きめ細かにその場で出来ることを提示する

関係をいかにつくりだすか

中国に「グァンシー (關係)」という言葉があります。簡単にいえば「コネクション」ですが、このパーソナルネットワークは公的な関係と私的な関係が融合した意味合いをもっています。アジア圏ではビジネスだけの関係ではなりたたない場合がありますが、それがグァンシーという言葉に凝縮されているといえます。えこひいきみたいなネガティブな表現もありますが、よいグァンシーが課題の解決に役立つこともあります。グァンシーは、永続的な関係を築くことを重んじる長期志向な考え方です。

持続性や忍耐力、そして純粋に利益や信条を追い求めるというよりかは実践や勤労のほうを重んじる長期志向の方へのアプローチはどのようなものでしょうか。ちょっとつかみ所に困る指標ですが、「長く付き合う」という視点をふまえることで幾つか考えられます。いかに手厚いサポートを築くかを考えるのがヒントになりそうです。

  • 特別な知識なしでも使えるようにする
  • 利用者を投げ出すようなエラーメッセージや『行き止まり』をつくらない
  • できること、できないことを明確に示す

文化測定指標は起点にすぎない

この記事を読んでいる方ならひとつくらいは「私はそんなことはない」と思った指標評価がひとつくらいあったと思います。1つの国を1つの文化として当てはめている Hofstede のアプローチは一般論過ぎるだけでなく、多少ステレオタイプなところもあります。ターゲットにしている日本人利用者とはまったく当てはまらない場合もあります。今回、指標を基に幾つかのデザインアプローチを紹介しましたが、これらを実践すれば日本人受けする良い体験が提供できるというわけではありません。ただ、ひとつの視点として参考になったかと思います。

今回紹介した指標以外にも、考慮しておきたい指標は幾つかあります。

コンテキスト(文脈)
Geert Hofstede の文化指標によれば、日本人は真面目で堅実というイメージが先行するわけですが、文脈が変わればそれだけではなくなります。コミュニティ・グループの中では態度や言葉使いが変わるということもあります。どこでどのような関係を築きたいかによって変わる姿勢も国によって違うでしょう
権威者の影響力
これも文化によって異なりますね。この人がいえばたくさんの人がついてくる場合もあれば、そうでない場合があります。むしろ無名の人をきっかけにしたバイラルのほうが広がりやすい社会もあります
Webに繋がる環境
これは Web サイト制作特有の課題。どのデバイスでというのはもちろんですが、どれくらいの頻度とスピードでアクセスしているのかも考慮対象になります

私のサイトをはじめたくさんの情報が海外から流れてくるわけですが、それらをユニバーサルな答えと判断せず、文化の違いを踏まえていかに消化するのかが今後の鍵ですね。それは評価項目の再検討であったり、UIコンポーネントの調整、そしてコピーライティングなど多岐にわたります。今回は『国の文化』というひろい枠組みでしたが、もしかすると『IT業界の文化』『名古屋市中区の文化』など細分化して考慮することになる場合もあるでしょう。真剣に研究・調査しまくる必要はないですが、文化の違いがあることを無視してデザインをしてはいけないなと再確認しました。

Illustration by John Lopez

※このエントリは ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet Japan編集部の見解・意向を示すものではありません。
  • 新着記事
  • 特集
  • ブログ