使いやすいさと認知負荷のバランス感覚

2010-06-23 03:29:23

私たちが「使いやすい、直感的」だといっている機器やソフトウェアでも、脳や身体は何かしらの処理を行っています。自分が使いやすいと思っていることも、人にとってはそうではない場合があります。これはリテラシーの高い/低いということで片付けることが出来ることでしょうか。デザインを考えるにおいて「簡単に(気軽に)使ってもらう」ということはひとつの課題であると同時に目標です。

インストラクショナルデザインは、人がいかに学習するのかを研究しデザインする分野です。Wikipedia では「より良い学習の環境を総合的にデザイン」と書かれているので、教育分野のデザインと考える方も少なくありません。20世紀後半から今世紀になると人の学習の仕方だけでなく、脳がどのように情報を処理するのかにも注目が集まりはじめます。こうした背景から認知負荷理論 (Cognitive Load Theory) が登場します。

人の認知や記憶には限界があるので、個々に確立されている独自のシステム(スキーマ)を援用して効率よく情報を処理するというのが認知負荷理論の考え方です。認知負荷理論に関しては 鈴木達也氏の人間の情報処理と映像 [PPT]が分かりやすくまとまっています。この資料は映像視聴における認知負荷についてまとめられており、Webサイトを観覧する行為にも似ていることから、参考になるところがあると思います。この資料を読むと3種類の負荷があると考えることが出来ます。

3つの負荷
知覚負荷
考えたり、記憶したり、スキーマと関連付けさせること
視覚負荷
目の前にみえる情報に気を止めたり、気付くこと
動作負荷
マウスやキーボードといった機器の操作

もしタスクをこなすためのアプリケーションであったり、情報を伝えるためのWebサイトであれば、これらの三つの負荷を下げることが重要な課題です。ただし、これらすべてを下げることは技術的な制約や、コンテンツ提供側の意向などで難しいことがあるでしょう。また、初期段階で利用者がスキーマを組み立てるためのきっかけ作りも課題です。

直感的な操作というのは、上に紹介した負荷が低い場合に発生する『現象』だといえます。しかし、現実的にいえばこれらの負荷をゼロにすることは出来ませんし、人によって形成されているスキーマも違えば、処理能力は個人によって異なります。また、視覚負荷を減らしたことにより (例えば文字量を極端に減らす)、知覚への負担が増えるといった可能性もあり (情報が少な過ぎて経験と結びつけれない)、バランスも要求されます。「使いにくい」と感じるのもこれらの負荷のいずれかが増加した結果と考えることができます。

私たちがアイコンに実世界のオブジェクトをメタファーに使ったり、既にあるアプリケーションの作法を取り入れたりするのは、こうした負荷を下げるためのアプローチということになります。iPhone / iPad の操作が『直感的』だと感じられるのもマウスの操作より負荷が低く、実世界で使う手の動きを真似て操作が出来る点にあるでしょう。

すべてのものの負荷を軽減させれば良いのかといえば、そうではありません。例えば、ゲームデザインは今回紹介した負荷をいかに上げるかということを考えることだといえます。ゲームは視覚的な負荷は大きいですし、見逃すことが命取りになることもあります。基本的な操作は他のゲームに似ているものの、特別な操作を学習することで、さらに上を目指すことも出来ます。ゲームのように負荷を上げることによって、楽しさや喜びといった特別な感情を利用者に与えることが出来る場合があります。

つまり、タスクをこなすという観点からいえば負荷を下げることが重要ですが、感情に訴えかけるものは負荷が高い場合があるということです。負荷のバランスを調整することでポジティブな感情を与えることが出来ると同時にネガティブな感情にもなります。私たちが「使いにくい」と感じたとき、自分にとって知覚・視覚・動作のどれに負荷がかかっているのかを考えることで、改善のヒントにつながるでしょう。

Photo is taken by Donald Macleod

※このエントリは ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet Japan編集部の見解・意向を示すものではありません。
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