スマホはコンデジを滅ぼすのか? カメラ業界にスマホが与えた影響を考える。
builder読者の皆さん、こんにちは。
山田井ユウキです。
著名ブロガーのちきりんさんが、Twitterで次のようなツイートをされていました。
「コンパクトデジカメ市場は、次の5年くらいで消滅に向かうよね? 今、日本メーカー全体でこの事業に携わっている社員って、数として合計どれくらいなんだろ? 彼らは次に、何を作るのだろう?」
https://twitter.com/InsideCHIKIRIN/status/275092743393533953
たぶん、これって多くの人が感じていることなんじゃないかと思います。
カメラファンとしては色々思うこともあるのですが、ちょうどいい機会なのでスマホがカメラ業界に与えた影響と今後の予想を、自分なりにまとめてみようと思います。
※画質の評価については賛否あると思いますが、レンズがどうとか画像処理エンジンがどうとか言い出すとマニアックすぎるので、ここではセンサーサイズの差を画質の差として話を進めます。
※写真はすべてAmazonより引用。
1.そもそもコンデジとは何か
まず、そもそも「コンパクトデジカメ」(以下、コンデジ)は、カメラ全体の中でどういう位置づけにあるのかをおさえておきましょう。
そもそもデジタルカメラは、大きく4種類の規格に分類されます。
「フルサイズ」・・・プロカメラマンや写真好きのアマチュアが使う一眼レフカメラ。大きく、重く、高級。
「APS-C」・・・フルサイズと形は似ていますが、フルサイズよりはやや小さく、やや軽く、値段もお手頃。一般的に「プロっぽいカメラ」とされるのは、フルサイズとこれ。
「ミラーレス」・・・2008年頃から市場に出回り始めたカメラ。APS-Cよりも断然コンパクトながら、レンズ交換が可能。
「コンデジ」・・・超軽量で価格も控えめなものが多いですが、レンズ交換はできず画質もそれなり。
もちろんこの分類に当てはまらないカメラもあるのですが(中判カメラとかライカとか)、それを言い出すとキリがないのでとりあえずこの4種類で話を進めます。
2.スマホカメラの位置づけ
スマホが爆発的に流行し始めた頃(3年くらい前でしょうか)までは、この4種類にははっきりとした特徴の違いがありました。
ざっくりまとめると次のようになります。
画質、軽量コンパクト、レンズ交換の可不可、背景をボカせるかどうかの4点で特徴づけをしてみましたが、それぞれメリット・デメリットがあることがわかります。
重くてデカいほど画質が良いと思っておけばだいたい間違いありません。
コンデジのメリットは軽量コンパクトであること、デメリットは画質が良くないこと、レンズ交換ができないこと、そして背景をボカした写真が撮りにくいこと、だったわけですね。こうして書くと良くないところだらけに思えますが、軽量コンパクトであることはそれ以上のメリットなので、コンデジにもニーズがあったわけです。
ところが、ここ1、2年でスマホカメラが台頭し、この図式がゆるぎ始めました。
ご覧の通り、コンデジのとスマホカメラは似た特徴を持っています。軽量コンパクトであり、レンズ交換はできず、画質はあまり良くありません。
スマホカメラとコンデジは完全に競合しているように見えます。
ならば、物を一つにまとめられて、かつ撮った写真をすぐネットにアップしたり友だちに送信できるスマホの方が有利に決まっています。
これが、冒頭で挙げたちきりんさんのツイートの理由なのだと思います。
3.スマホとコンデジは競合する?
ここで、一つ注意すべき点があります。
それは、コンデジとスマホカメラの画質はまったく違うということです。
たしかにスマホのカメラの進化は著しく、普段使いするのにまったく問題ないレベルまできているのですが、しかしまだコンデジにははっきり見劣りします。同等ということはありません。
……が、しかしその画質の差を気にする人は、そもそももっと画質の良いカメラを持っている場合が多いです。わざわざスマホに加えてもう一台カメラを持つのであれば、スマホカメラとははっきり違う特徴を持ったミラーレス以上のカメラを選ぶでしょう。
さらに、明るい場所で撮影した写真を縮小してSNS等にアップする程度だと、スマホとコンデジの画質の差はほとんどわかりません。それどころか、ミラーレス以上のもっと良いカメラとスマホの差だって微々たるものになります。ついでに言えば、スマホはアプリで様々なフィルタを気軽にかけられるので、パッと見はむしろ綺麗に見えたりします。写真を拡大して「この部分の解像度が~」とか気にするのはよほどのカメラ好きだけです。
よって、「レンズ交換ができない」とか「背景がボカせない」といったわかりやすい点での違いが両者にないため、スマホはコンデジのメリットを完全に食ってしまっているといえるのです。
4.コンデジの進化とカメラヒエラルキーの変化
さて、このままではスマホに食われかねないコンデジですが、じゃあコンデジがサクッとなくなってしまうのかというと、そんなことはないと僕は思います。
実はカメラ業界には、この1、2年で大きな変化の波が訪れています。
先ほどの図をもう一度見てみましょう。
スマホに突き上げられる形で、このヒエラルキーに変化が起こっているのです。
その変化とは、画質の下克上です。
というのも、コンデジがスマホに勝てる部分といえば画質しかないからです(一部の特殊な用途のコンデジを除く)。通信もできて、荷物も小さくまとめられるスマホに対抗するためには、パッと見で一般人にもわかるようなはっきりとした画質の差を見せつけなければなりません。
それもあってか、コンデジの中でもハイエンド(高性能)な機種の画質は、ここ最近すさまじい勢いで進化しています。
たとえばソニーから今年の6月に発売されたサイバーショット DSC-RX100というコンデジの画質は、これまでの一般的なコンデジの常識を超えてミラーレスに迫る勢いですし、同じく今年発売のキヤノン Power Shot G1Xの画質はミラーレスを飛び越えてAPS-Cに近いところまで到達しています。
さらにさらに、11月に発売されたばかりのソニーサイバーショット DSC-RX1の画質に至っては、なんとフルサイズクラスです(お値段は25万円ほどしますが……)。
先ほどの表に画質順で無理やり当てはめるならこうなります。
じゃあスマホも負けずにフルサイズ並みの画質を目指せばいいじゃん! と思うかもしれませんが、話はそう簡単ではありません。
あるレベル以上に画質を上げるためには、どうしても本体とレンズの大きさが一定以上必要なのですが、スマホはその特性上、カメラ機能のために割けるスペースも狭いですし、レンズも小さめです。
今後、技術革新によってスマホカメラの性能が急激にアップする可能性はありますが、当然コンデジ以上のカメラ専用機も追いつかれないように進化するはずです。
そして、カメラのためだけにボディ全部を使えるカメラ専用機の方が、カメラ以外にも色々な機能を搭載し、かつ小さくなくてはいけないスマホよりもまだまだ有利なのです。
……余談ですが、上の表だけ見ると画質最高で軽量コンパクトなRX1が最強に思えますが、実際は表にはない部分で色々足りないものがあります。ファインダーとか、レンズにズーム機能がないとか……。あくまで上の表はカメラの一面しか見ていないのでご注意ください。
フルサイズ機は意味もなくあんなに大きく重いわけではなくて、最高級の画質と、正確にフレーミングするためのファインダーと、動く物にも素早くピントを合わせるためのフォーカス性能と、プロの過酷な仕事にも耐えうる剛性をすべて取り入れた結果、あんなにゴツくなっているのです。
5.スマホがカメラ業界に与えた影響
スマホによって食われ始めたコンデジは、カメラ専用機ならではの強みを活かした方向に進化しているわけですが、同様に他の規格でも様々な変化が起こっています。
たとえばミラーレス機であるソニーの「NEX」シリーズや富士フイルムの「X-Pro1」、キヤノンの「EOS M」などは、ミラーレスのメリットである軽量コンパクトな大きさはそのままに、規格としては本来上位にあたるAPS-Cと同等の画質を備えていますし、ペンタックスQは逆にコンデジクラスのコンパクトさでありながらレンズ交換が可能という唯一無二の機種として人気を集めています。
また、逆にAndroidOSを搭載してスマホに近づいたデジカメや、Wi-Fi機能付きのフルサイズ機も登場するなど、ここでは書ききれないほどバラエティに富んだ多用な進化を遂げており、デジカメ業界はかつてないほどの盛り上がりを見せています。
今、ここまでカメラ業界が盛り上がっているのはスマホの影響が強いと僕は考えています。
というのも、写真を撮るという文化がこれほど広がったのは、間違いなくスマホのおかげだからです。
もちろんスマホ以前からフィーチャーフォンのカメラで写真を撮ってmixiにアップする人もたくさんいましたが、TwitterやFacebook、さらにはinstagramといった"場"が充実してきたタイミングとスマホの流行が同時期であることを考えると、やはり本格的に写真文化が根付いたのはスマホブーム以降のここ数年なのかなぁという印象です。
事実、どこかの雑誌(雑誌名忘れました……)のインタビューでは、カメラメーカーの方が「スマホはカメラ業界にとって敵ではなく、むしろ写真文化の裾野を拡大してくれた恩人」といったことを語っていました。これは本当にそうなのだろうと思います。
ということで長々と書いてしまいましたが、結論としては、
スマホカメラはコンデジと競合する面もある。が、コンデジはカメラ専用機ならではの独自進化を遂げて生き残る。
のではないかと僕は思います。
もっとも、この業界は異様に進化のスピードが速いので、"5年で完全に消滅する"ことはないと思いますが、ひょっとしたらちきりんさんが言うように"5年くらいで消滅に向かう"ことはありえるのかもしれません。
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