山田井ユウキ

「ソーシャルゲームでイノベーションを起こしたい」――GREE社長・田中良和氏が東京ゲームショウで語ったソーシャルゲームの現状と今後の展望

2011-09-16 07:00:00


builder読者の皆さん、こんにちは。

金曜日担当の山田井ユウキです。


東京ゲームショウ、始まりましたね!

今回注目を集めている出展企業といえば、なんといってもGREEでしょう。

そもそもGREEはゲーム企業のカテゴリに入るのかという疑問もあるわけですが、ともかくソーシャルゲームを運営する企業がこれだけ大きなブースを出展するということについては、皆さん色々と思うところもあるのではないでしょうか。


ということで、そのGREE社長・田中良和氏が行った基調講演「ソーシャルゲームが巻き起こすパラダイムシフト」の中で語られた内容、特にユーザーからの質問とそれに対する田中社長の回答部分を書き起こしてみたいと思います。

長いのでメリハリをつけるため、重要だと僕が感じた発言には強調を入れておきます。

(聞き手) 日経BP社 日経エンタテインメント!編集委員 品田英雄氏


―――

――GREEはこのところ次々と海外の企業と買収・提携などを発表していますが、海外への進出をどのように考えていますか。また一番力を入れている地域はどこでしょうか。


「一番力を入れているのは当然北米とかヨーロッパがマーケットが大きいし、中国もとは思いますが、あまりマーケットって考えてないところもあります。どういうことかというと、フェイスブックやツイッターって“この国を狙おう”とはなくて、全世界いきなりやろうとして成功しているモデル。僕らも同じことをできるはずなら、3年後5年後にこんなにいっぱい使ってるんだっていうことを再現したいと思います。ツイッターって別にアメリカで見ても日本で見てもヨーロッパで見ても同じ。言葉だけ翻訳して通じるものをベースにしたいです」


――これまでも多くのコンテンツ企業エンターテイメント企業が世界を狙って果たせなかったにも関わらず、GREEはどうやって成功すると考えているのでしょうか


「僕らもまだまだ挑戦ではありますが、いわゆる日本の純粋なインターネット企業でグローバルで大成功した企業って一社も見たことがない。ただ日本のゲーム会社で世界で成功している会社はたくさんあります。我々はゲーム業界では新参者だけど、この業界であればグローバル化することができるかもしれないと思います。世界中どこに行っても日本のゲームを使っている人がいます。そこで初めて日本のゲーム会社ってすごいんだなと感じますし、そういうことをやられている方がいっぱいいるわけですから学びたいと思います」


――今スマートフォンが急速に増えています。スマフォユーザーはガラケーユーザーよりもお金を払わないと言われていますが今後も今までのように利益率のいいビジネスを展開できるのでしょうか。


「今年の初めくらいからGREEもスマートフォンにシフトして不安だったのですが、半年くらいやってみて1割から2割くらいスマートフォンの売上げがあります。ガラケーと変わらないような単価が実現できています。スマートフォンとフィーチャーフォンは確かに違うのですが、タッチパネルかテンキーかという違いしかないといえばないです。ガラケーっぽいhtmlのゲームでも十分にスマートフォンでも使ってもらえることがわかりました。そういうのはスマフォではダメだって言われたこともあったんですが、提供していると同じ見た目でも問題なかった。ただこれからはスマフォライクなものが流行るのでそういう研究を進めています」


――DeNAと比較されることが多いGREEですが、率直にDeNAはどうですか。


我々は合法なオペレーションをしているというのがあるんですが(笑)、それはおいといて……ノーコメントですね(笑)。多くの人が楽しんでいる、欲しいと思っているもの、少なくともサービスについては誰がやっていようが結果としてみんなが喜んでいるものは強く受け止めなきゃいけないし、そこから学ぶべきだと真摯に思っているし、そこに変なバイアスをかけてあんなものはダメだっていう人は学びのない人だなと思います


――一緒に仕事をしたくなる企業・チームとは?


「人間ですから、お互い気持ちよく仕事したいというのはあります。サードパーティー部分については僕らもサポートしますが、僕らがゲームを作っているわけではないので、やっぱり本当にいいものを作る方がユーザーから指示されますしそれを応援していくということかなと思います。一緒に仕事をしていく中で行き違いとか言った言わないがあると思うんですよね。行き違いがあると感情的になる部分もあると思うので、僕らが間違うこととか方針を変えることとかもいっぱいある。そういうのをお互いに許していける関係が重要なのかなと思います」


――人材の採用に非常に積極的ですがどんな人材を採用していますか? どこを見て判断していますか?


「僕はですね、笑顔のかわいい人を採用しようといっているんですが(笑)。言いたいことは、ソーシャルでどういうものを最終的に作っていいのかは世の中で誰もわかってないと思うんです。試行錯誤で作るしかない中では、いっぱい失敗していく仲間だと思うんです。失敗を分かち合ってさらにいいものを作っていこうと前向きな気持ちになれる人じゃないと一緒に仕事はできないなと。そういう人間性を見るべきだと思います。もちろん経験や知識もあったほうがいいんですがあまり重要じゃないです。僕らもソーシャルゲームなんて3年前まで作ったこともなかったんですから。昨日まで掲示板作っていた人がゲーム作ろうかって言って作ったのがソーシャルゲームなわけですからゼロから学んでいるわけですよね。そういう意味では経験もあった方がいいんですが、どっちかというとまったく新しいことに対してゼロからキャッチアップできるのかが大事です」


――ゲームの大作って何百人も関わって何億、何十億もお金使ってやるじゃないですか。作品はすごいんだけど、一人ひとりのやりがいが下がってきているのでは。そのあたりソーシャルゲームはどうですか?


「コンソールゲーム業界もファミコンの頃は少人数でやってたのが大人数化していく中で失われるものもあるのかもしれないけど、そういう意味では今のソーシャルゲーム業界は数人で一つのサービスに自分がどう関わっているかわかりやすい時代ではあります。ただ当然いつか大規模化していきますが、何か新しい産業が出発する瞬間に立ち会えているのは重要なフェーズかなと思います」


――モバゲーの忍者ロワイヤルは3人で作って1人は新人だったそうですが、そういうのは普通なんですか?


「僕らも聖戦ケルベロスというゲームがあるんですが、これは新卒2年目のエンジニアに全部任せて彼が全部考えて3人とか4人とかのチーム中心に作って、有数のヒットコンテンツになっていますから。そいつは24とか25ですから。でも僕もグリー作ったのが26くらいですから20代も20歳超えればそれなりのものは何でも作れるはずだと思っています」


――このところ似ているソーシャルゲームが随分増えているように思います。今後新機軸のソーシャルゲームは登場するのでしょうか。


「ゲームデザインは徐々に移り変わっていると思うんですが、我々も昔は釣りゲームとか作ってましたが最近は戦国物やバトル物を作っていますし、流行るゲームデザインはユーザーによって変わっていきますから。中でも重要なのは、あるゲームデザインが流行っているときにそのゲームデザインをコアにして色々なモチーフのものを作るのはそれが求められているということがある。作り手は飽きちゃうんで新しいもの新しいものってなっちゃうと思うんですが、ユーザーはまだまだ同じものが欲しいという状態にありますから、そういうときは早く変化しすぎずに今欲しい物を提供するのが重要かなと思います。子どもの頃、広井王子さんという方が作った魔神英雄伝ワタルというアニメがあったんですが、広井さんが飽きたらしくてぜんぜん違うアニメを作ったら大コケしまして、でまた魔神英雄伝ワタル2を作ったら爆発的にヒットしまして、そのときに広井さんが「早かった」と。「まだ魔神英雄伝をみんなが求めてたから2を作ってもよかった」と。僕も2を心待ちにしている一人だったので本当にそうだなと思った記憶があります。そういう意味では、今はこういうのが流行っているならそれを作りまくるべきだと思っています」


――ヒットするゲーム、ヒットしないゲームの違いは?


「正直このゲームが流行るかどうかってわからない部分があって出してみて勝負なんです。ただソーシャルゲーム業界においていいのは出してから中身を変えられること。最近CMしている「探検ドリランド」なんて始めと今ではゲームデザインが100%違いますから。アクションゲームだったのにカードゲームになってますから。それくらい過去のゲームはなかったことにしてブランド名を継承することが同じ中でできるんですよ。パッケージだと「ファイナルファンタジータクティクス」など若干(名前を)変える必要があったりすると思うんですが、同じブランド・同じサービスでも中身を変えることができると。つまんないと思ってもユーザーの動きを見て変えられるんです。リリースした瞬間に掲示板に数分後には「面白い」「つまんない」って大量にきますから、アンケートも取る必要ないです。僕らは月次で予算とるんですが、「このゲームは月次でいくら売り上げよう」って。はっきり言って新しいゲームをリリースした数時間でその予算が月末にいくかどうかがわかりますから。このままだとダメだからって緊急会議して明日までにゲームデザイン変えようとかっていうのを毎時間行っている会社です」


――どんなゲームが好きですか? 思い出に残るゲームはありますか?


「このゲームショウにきましてさっき一周したんですけど、本当に問題のある発言なんですけども、どう考えてもソーシャルゲームよりコンソールの方が面白そうだなと(笑)。超この映像かっこいいじゃん! とか思っているし、明日アマゾンで買わなきゃ! とか思ったんですけども、ただやっぱりこの一年二年でソーシャルゲームも伸びてますし、コンソールゲーム業界も当然ありますし、カニバっているというよりは、多分日本においてゲームビジネス自体が大きくなったと思うんです」


――六本木ヒルズで仕事するようになって変わったことは?


「もともとベンチャー企業なので初めはマンションの一室で仕事を始めたわけです。その頃は劣悪な環境だったんですが、今思っているのは我々ががんばって日本や世界において業界を代表するような企業にならなきゃいけないという責任感というかビジョンを持っていますので、そういう意味では六本木ヒルズのいいオフィス環境を提供して、今後こういうサービスが発展するんだというシンボルとしてお伝えしていく場所にしていきたいと思っています」


――世界で戦う勝算について


「ビジネスとしては北米とか日本、ヨーロッパが大きいと思うんですが、個人的には南米とかアフリカでやりたいなと思っています。なぜかというとそういう人たちって何万円もするゲーム機なんて買えないわけですよね。そういう人たちは多分ゲームビジネスに触れたことがないと思うんですよ。そういう人たちがスマートフォンというコンピュータが全員に行き渡る時代で初めてコンピュータゲームが出て、こんな面白いものを今までみんなやってたんだって思いながらゲームを楽しむ時代が何年も先に来ると思うんです。それが本当のイノベーションだなと。当然収益も考えたいですが、社会のイノベーションを実現したいと思っています。


――TGS基調講演参加者へのメッセージ


「子どもの頃からコンソールゲームばかりやってきて今も色々なゲームを楽しんでいます。よくソーシャルゲームVSコンソールゲームみたいなことを言われるのはそうじゃないんじゃないかなと。そもそもゲーム人口がスマートフォンを契機に爆発的に広がっていて、僕らのサービスは一本のゲームを国内においても一千万人が使うようなレベルにきています。その話をあるゲームクリエイターの方にしたときに「それはすごいですね。そう思えば何十万本ゲームを売るっていうのは多くの人にゲームを提供していると思っていましたけど、ニッチなゲームを提供していたことに気づきました」と言われて。日本でマスメディアとかテレビや新聞は何千万人級のメディアビジネスで、そういうのが日本における本当のマスのビジネスだなと。世界でいえば何億人・何十億人というレベルだと思うんですが、どうしても「ゲームなんて」みたいなことを言われて僕も育ってますが、ひとつ思うのは、確かに(ゲームを)やっている人数が少ないんじゃないかなと思うんですよね。本当にみんながゲームをやることでゲームの地位向上が達成されるんじゃないかなと。僕もスマートフォンを通じてゲーム業界を活発化したものにしたいですし、ゲームは日本の宝だと思いますので僕もその仲間に入れていただきたいですし、応援していただきたいです」


―――


最後に僕がソーシャルゲームに思うところと、今回GREEが東京ゲームショウに出展した狙いについて書いておこうと思います。便宜上、既存の「ゲームらしいゲーム」のことをコンソールゲームと表記します。

ここ最近急激に成長したことで、何かと既存のゲーム業界と比較・批判されることの多いソーシャルゲームですが、そもそもソーシャルゲームをやっている層はおそらくソーシャルゲームに飽きてもコンソールゲームに移ることはないし、コンソールゲームをプレイしている層はたとえ明日コンソールゲームがなくなったとしても、ソーシャルゲームを同じように楽しむことはないでしょう。つまりぜんぜん食い合ってはいないのです。ソーシャルゲームのユーザーは、暇な時間をゲームで潰してついでにコミュニケーションを楽しみたいだけで、従来のゲーマーのようにわざわざゲームをするために時間を割くことはないのですから。

その意味でソーシャルゲームとコンソールゲームは、たまたまどちらにも「ゲーム」という呼称がついているがために同じ土俵に上げられているだけで、本来まったく別物であるはずです(だからGREEがTGSに出展したのは驚きでした。mixiがmixiアプリを引っさげて出展したら驚くでしょう。それと同じです)。

僕はこの本来対立していないはずなのに対立している妙な現象を見る度に、数年前に流行ったケータイ小説のブームを思い出します。

あれも「従来の小説」を読まない層がメインターゲットだったケータイ小説を、ネットでは「あんなの小説じゃない」として叩く風潮がありました。そりゃ「従来の小説」を基準に考えたらケータイ小説は小説ではないです。でもケータイ小説を読んでいた層が、じゃあ現在ケータイ小説を卒業して「従来の小説」に手を出しているかといえば、とてもそうは思えない。つまり小説と名が付いていて何となく文字を扱っていたところが共通していただけで、ケータイ小説界はそもそも従来の小説ファンにはまったく関係ない業界の話だったのです。

今はケータイ小説ブームもすっかり下火になりましたが――もっとも完全に消えたわけではなく、僕のような外部の人間の目に触れない程度に“潜った”のでしょうけど――それと同様に、ソーシャルゲームもケータイ小説と同じく栄枯盛衰の道を辿る可能性は十分にあります。

では新しく生まれた文化が一過性のもので終わらないためにどうすればいいかというと、これはもう「ファン」を育てるしかありません。ブーム時にはお金を使ってくれても、マジョリティは移り気です。今後彼らがソーシャルゲームに飽きる日は必ず来ます。そうなったとき、業界を支えてくれるのは「ファン」しかいません。ファンを育てるためには、文化そのもののクオリティが上がり、成熟することが必要です。

そのあたりは、もちろん田中社長もよくわかっていることでしょう。今回の「どう考えてもソーシャルゲームよりコンソールの方が面白い」といった発言はリップサービスもあるでしょうが、本音でもあると思います。何しろ田中社長自身がファミコン世代でゲーセンにも通っていたガチゲーマーだったわけですから。

GREEやモバゲーがここのところ既存のゲーム会社に働きかけてビッグタイトルを次々に獲得していること、またこうしてGREEが東京ゲームショウに出展した本当の狙いは、そうした「流動的ではない本当のファン」獲得に向けての種まきなのだろうと思います。




※このエントリは ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet Japan編集部の見解・意向を示すものではありません。
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