山田井ユウキ

ネット黎明期を支えた個人サイトたち―絶望の世界―

2008-12-05 07:00:00

builder読者の皆さん、こんにちは。

最近どうも疲れ気味で、ボーっとしながら歩くことが増えた山田井ユウキです。この前も何となく「もしも自分が水嶋ヒロだったら……」という気持ち悪い妄想をしながらコンビニに入ったところ、でかい鏡が商品棚の隣に備え付けてあって一瞬で我に返りました。風呂場だともうちょっとマシに見えたのに、なんでコンビニの鏡、あんなに残酷なん?(節子)

 

そんなことはさておき。

 

僕のようにコンビニの鏡に言いようのない憎しみと絶望を抱いている諸兄もさぞ多いことと思います。

今回ご紹介させていただく「ネット黎明期を支えた個人サイト」は、そんな僕らの思いを代弁したかのようなタイトル、その名も「絶望の世界」

ああ……なんてこの季節(クリスマスまであと1か月もない)にぴったりのサイト名なんだ!

 

――と思った方、残念でした!

このサイト、別にクリスマスに向かって怨嗟の声をまき散らしているわけではなく、日記形式で綴られたオンライン小説サイトです。

1998年にスタートし2004年まで続いた絶望の世界は、数多くの熱狂的なファンを生み出し、個人サイト史に偉大な足跡を残しました。

サイトそのものはすでに消滅していますが、ファンがミラーサイトを作成しており、幸運なことに現在でもログのすべてを閲覧することができます(ただしいつ消えるかわかりませんが)。

相当長い物語なので時間はかかりますが、興味のある方はぜひ「絶望の世界」に目を通してもらってから改めて今回の記事をご覧いただきたいと思います。

関連リンク:絶望の世界 ミラー

 

とはいえ、「長い」と聞くと尻ごみしてしまう読者の方もおられることでしょう。

でもご安心を! 「絶望の世界」は、ウェブ日記の形をとって綴られた物語。それゆえに一話が数行と非常に短く、テンポよく読むことができます。

たとえば第一話だけを引用しますと、

 

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11月8日(日) 晴れ

今日はホームページ開設記念日です。日記を付ける決意をしました。
学校での嫌な事とかもきちんと書いていくつもりです。
僕の周りの人は僕がインターネットをやってる事を知りません。
知ってる人に見られる心配が無いので自由に書けます。
頑張ります。

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わずか4行。たったこれだけです。

その次は、11月9日の日記。そして次が10日の日記……と続いていき、気がつくとグイグイと物語に引き込まれて、学生時代の僕のように単位を落としてしまうこと間違いなし!

……すみません、今さりげなく自分の不出来を絶望の世界のせいにしましたが、とにかくそれぐらいのパワーを持った作品なのです。

 

ではなぜこの物語が多くの人を惹きつけたのか。

ネタバレなしで軽く考察してみたいと思うので、すでに読まれた方も未読の方も、しばしお付き合いください。

 

―――

 

題して、

「絶望の世界」がヒットした理由

とでもしておきましょう。

 

まずは僕のオンライン小説に対する考えを述べておきますね。

僕は、オンライン上で長編小説を読ませるのは基本的に難しい、と考えています。

スタート時からずっと追いかけている場合などを除いて、サイトを訪問していきなり長文を読まされるのは、よほどのことがないと辛いものがあります。

そこで作者が使った手法が、長文を分割して短文に見せるというものでした。

これこそが、「絶望の世界」のヒットの最大の理由なのではないかと思います。

 

短文は読みやすいため、読者の心理的な抵抗を取り除いて、再訪率を上げる効果があります。

たとえば、「絶望の世界」が以下のような書き方だったらどうでしょうか。

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今日はホームページ開設記念日です。日記を付ける決意をしました。
学校での嫌な事とかもきちんと書いていくつもりです。
僕の周りの人は僕がインターネットをやってる事を知りません。
知ってる人に見られる心配が無いので自由に書けます。
頑張ります。
今日はお弁当に虫が入ってました。後ろの席の奥田が笑ってます。
どうやら奥田が虫を入れたようです。虫は箸でつまんで捨てました。
ご飯が茶色くなってましたがもったいないのできちんと食べました。
少し苦かったです。
昨日虫入りのお弁当を食べたせいで僕のあだ名が「虫」になりました。
奥田が言い始めたんですがいつの間にかみんな真似してます。
やっぱりご飯粒の隙間に入ってた虫の足も捨てるべきでした。
ちぎれた足まで取り除くのが面倒だったので一緒に食べてしまったんです。
後悔してます。
「虫」というあだ名が定着しそうです。他のクラスの人達まで僕を「虫」と呼びます。
奥田が特にしつこいです。あまりにしつこいので黙ってました。
そしたら「虫なだけに無視すんのか?ヒヒヒ」なんてくだらないことを言ってました。
奥田にはギャグのセンスがないと思いました。
つまんないです。

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……まあ、さすがにもうちょっと何とかなりそうな気もしますが、とりあえずパッと見で引いてしまう人も少なくないでしょう。

そう考えると、「11月9日(月) 晴れ」という“くさび”の効果がどれだけ大きいかがわかります。

 

ちと余談ですが、「モンスターハンター」というゲームをご存じでしょうか。

こいつは武器を抱えて「クエスト」と呼ばれるミッションを受け、モンスターを倒していくというゲームなのですが、気がつくとプレイ時間が300時間とか余裕で超えてしまうことで知られる廃人育成ツールです。ちなみに僕がモンハンで失った時間は900時間です。

なんでそんなに時間を吸い取られるのかというと、このゲーム、1回のクエストにかかる時間が最大でも50分と非常に短いんですね。

だから気軽に始められるし気軽に終われるのですが、その50分を積み重ねていつの間にか数百時間になってしまうわけです。

人間とは単純なもので、とりあえず現時点で見えている物量が少なければ、わりとすんなり受け入れることができてしまいます

これを僕は勝手にモンハン現象と呼んでいますが、「絶望の世界」はウェブ日記という形式を使うことで似たような効果を生むことに成功しました。

他にもウェブ日記形式がネットユーザーに親近感を与えたと思われる点や、当時のインターネットが持っていたアングラ感に「絶望の世界」がマッチして妙なリアリティを演出した点なども見逃せませんが、やはり何よりも長文という最大の壁を突破したことがヒットの理由だったのではないかと思います。

 

「絶望の世界」が盛り上がりを見せていた当時と比べると、インターネットもずいぶんと変わりました。

ブログが生まれ、コメントやトラックバックで簡単に個人サイト同士がつながるようになり、「絶望の世界」が持っていたどこか孤独な存在感はもはや時代の遺物と化したのかもしれません。

結局、作者が告知していた書籍化の話もなくなり、彼自身も行方がわからなくなってしまいましたが、きっと今もネットの片隅で新しい物語を生みだしていることでしょう。

 

 

……やばい、なんか柄にもなく真面目に書いてたら変な汗かいてきたんで今回はこのへんで!

 

 

 

※このエントリは ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet Japan編集部の見解・意向を示すものではありません。
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