国内最大規模のRailsサイトが7月に誕生した。月間2.8億PVのレシピサイトCOOKPADだ。
佐野:
もちろん、それも重要な検討事項ではありました。しかし、世間でよくいわれている問題については、実は、サーバリソースを増やすことによって解決できるものが結構あるのも事実です。当社では、ボトルネックになりがちなCPUやディスクについて、すでにSSD化するなど、ハードウエア上で解決できる問題には着手済みでした。
もちろんその先にはコストなど、さまざまな問題があり、賢くパフォーマンスを発揮させなければならなりません。ただ、我々のビジネスの場合、サービスの成長にあわせて余裕のあるリソースを確保しておき、当初は8割程度の稼働で占有しても、そのあとでチューニングすれば、サーバリソースの空きとトラフィックの伸びで、投資の回収はできます。もちろん、それだけでは解決できない問題もいくつか発生しますが、それはRubyだから起きる問題というわけではありません。
大野:
実際、どのぐらいの規模のサーバで運用しているのでしょうか?
佐野:
現在、ファイアウォールやファイルサーバは別にして、32ブレードを備えたブレードサーバを使用して運用しています。これにVMwareを乗せ、さらに多くの仮想サーバを立てています。
大野:
Bruce Tate氏が、著書の『Beyond Java』の中で、「Rubyは、非常にpragmatic(実践的)だ」といっています。 それに関連して、「JavaはSunの理想を実現する為に作られ、一方、世の中の課題にアプローチしたのがRubyだ」という一節があります。このRubyの実践的な特徴は、クックパッドの企業哲学と共鳴するところがあるのでしょうか?
佐野:
まず、何のための言語か、ということを考えたいですね。私は、世の中のため、世の中の役に立つプロダクトを生み出すためにテクノロジーはあると思っています。クックパッドの基本理念も、そこにあります。開発者の松本さんと話したことはありませんが、Rubyにも同様の思想があるような気がします。
大野:
松本さんも、まったく同じことをおっしゃっていますね。
佐野:
クックパッドが目指しているのは、「料理を楽しくしたい」ということ。そしてそうすることによって、世の中の役に立つことです。
我々が考える最適なテクノロジーとは、プロダクトを通して、それを実現するための優れた道具です。使ってみるとわかりますが、Rubyには、まさにそういった思想がにじみ出て出ています。我々は、Rubyのその部分に共鳴したのだと思っています。
大野:
以前、取材で松本さんに今後、Rubyをどうしていきたいか、と聞いたことがあります。それに対する彼の答えは、「自分がこうしたいというものは特にない。ただ、人の役に立つようにしていきたい」というものでした。
佐野:
Rubyは、インターネット登場後に生まれた新しい言語です。そのせいでしょうか?何でも縦に抑えようとするのではなく、言語としての役に立ち方をわきまえているというか、本当に使える道具を作りたいという思想がはっきりしている気がします。そこは、クックパッドの思想も同様です。
我々が、エンジニアに期待したいことは、自分がやりたいことと、得意なことを正確に把握することです。Rubyはまさに我々が、エンジニアに望む気質そのもののような気がします。
大野:
今年の7月14日にリニューアルオープンしてから、その後、特に感じた変化はありますか?
佐野:
言語を変えたことも影響しているのかもしれませんが、困難なリニューアルを乗り越えて、エンジニアたちの意識が一気に変わったように思います。これまでとは、緊張感がまったく違いますね。
自分たちが、455万人のユーザーの意思決定と思いを支え、レシピを預かっているという責任感が、エンジニアの一人一人に浸透したといえるのではないでしょうか。リニューアルの前とそれを乗り越えた後とでは、物事に対する反応が違ってきました。
一番の変化は、自分たちの都合ではなく、ユーザー視点で議論ができるようになったことでしょう。主体的に、どうしたら高い価値を提供できるのかという議論が自然と起きるようになりました。
大野:
ところでRubyを導入してから、機能を刷新したり、新たなサービスをロールアウトしたりする際、プランの段階やリリースしていくプロセスで何か変わったことはありましたか?
佐野:
一番の変化は、プロトタンピングが圧倒的に作りやすくなったことですね。プランの段階では、高いプロトタイピングの技術が必要です。実装して動かせるかどうかは、理詰めで思考してばかりではダメで、実際に作って試行錯誤する必要があります。
大野:
クックパッドのユーザーは、何を課題とし、何を求めていると認識していますか?
佐野:
我々のユーザーは、主婦を中心とした個人で、クックパッドを道具として使っています。したがって、我々のサイトは、つねに道具としてのクオリティが求められています。
大野:
そのクオリティとは、探しやすいとか、レスポンスが早いということでしょうか?
佐野:
まさしくそうです。アクセスのピークは、16時ごろですが、主婦が、もっとも忙しくなるのもこの頃です。彼女たちはこの短い時間の中で、毎日の献立を決めなければなりません。
そんな状況の中でクックパッドを使うユーザーに対して、求めてられた情報を即座に提供できるかどうかは、検索やレスポンスのクオリティが大きく影響します。また、生活を支える道具として利用されているだけに、その期待に応えることを我々も非常に重視しています。それをサポートしているのが、テクノロジーです。
極端にいえば、クックパッドは、ユーザーから電話や電子レンジと同じレベルの使いやすさを求められているのです。その意味で、他のサイトより圧倒的に厳しい要望が突きつけられているといえるでしょう。例えば、レスポンスの勝負は2秒間と決めています。たとえピーク時であろうと、情報が出てくるまで2秒を過ぎてしまうとユーザーは離れてしまいます。
また、情報の伝え方についても、どれだけ文章を短く、簡潔に表現するかに神経を使っています。一見、情報は多いほど喜ばれるように思いますが、そうではありません。情報量はできる限り絞り、ユーザーの動線を予測した構成を考える必要があります。繰り返し、それに改良を重ね、「おもてなし」レベルまで高めることが、クックパッドの日々の運営目標となっています。
大野:
クックパッドのクライアントは、どのような課題をもっているのでしょうか?
佐野:
現在、原材料高や少子化による人口減少の影響で、食品業界全体の緊張感が非常に高まっています。プロモーションやマーケティングの手法についても、これまでのやり方を踏襲すればよしとする余裕は、今の業界にはありません。求められているのは、実利です。実際にモノが動き、価値が顧客に届き、認知される、といった実利を上げる手法が求められています。
一方で、この環境は、クックパッドにとって最大のチャンスでもあります。我々は、まだ経験も実績も浅く、コネクションやネットワークも圧倒的に足りません。しかし現在、クックパッドのユーザーの97%を占める女性のうち、240万人は30代であり、その数は日本全体の同世代の女性人口の25%に当たります。つまり、日本人の30代の女性の4人に1人が、クックパッドのレシピを使い、献立を決めているということになります。
この高いポテンシャルを利用し、実利を提供できる媒体を運営しているということが、クックパッドの強みです。そして我々が、現実の市場でクライアントの利益を生み出せるかが、そのチャンスがつかめるかどうかの分かれ目になります。法人向けのサービスは、単純に機能や集計データを提供するだけでなく、クライアントにとって、それがどういう効果をもたらすかが鍵となるからです。難題ですが、そこにこそ勝負できるチャンスがあると考えています。
大野:
いよいよリアル市場に討って出るわけですね。それを支えるためには、サービスや組織力の強化も必要になるでしょう。現在、クックパッド自身が抱える課題に対しては、テクノロジーをどのようにアプローチさせてるのでしょうか?
佐野:
たとえば、Google Docsはかなりヘビーに使っています。ドキュメントや数字、プランの共有をこれまでは、エクセルで行っていましたが、この方法だとバージョン管理ができないという問題がありました。それをDocs化することで、ひとつのファイルを全員で共有し、編集できるので、その管理効果は非常に大きいものがあります。
また、営業補助については、Salesforce.comを使って管理しています。営業マンにとってこれは、自分の行動をフィードバックできるツールとして有効です。PDCAの中で、とくに「チェック」は重要であるにもかかわらず、日々の営業活動の中では見落とされがちです。この「チェック」を個々の営業マンに対して、定量的にフィードバックできるという点で、高い効果を発揮しています。
また、これをインターネットのテクノロジーを活用して、オンライン化することで、マネジメントの領域でも活用しています。同じ数字を使って、事業計画との整合性や予算や計画の進捗状況などをかなり詳細にチェックすることができるだけでなく、早期のミスの修正と正しい評価が可能になりました。
マネジメントにおいて、とくにその効果が大きかったのは、評価の改善です。それまでは結果に対する評価しかできなかったのが、そのプロセスを評価することができるようになりました。
しかし、いずれのテクノロジーも使いこなすには、それなりの覚悟が必要です。我々は、これもあれもと導入するのではなく、必要な面において、最適なテクノロジーを絞り込み、それを徹底的に生かす方針で導入しています。
大野:
自社で作られているものと、外から導入するものがあるようですが、その区分には、どのような基準があるのでしょうか?
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